タップアワード「バリアフリー旅行の現場から」前編

この記事は18分ぐらいで読めます♪読み応え十分!どうぞお付き合いください^^

タップアワード受賞しました

論文っぽいもの。

3世代でもラクラクのバリアフリー旅、
そして家族で落語を楽しんでほしい…
鈴の宿 登府屋旅館の 遠藤直人(@naaot)です。

観光関係の論文ということで、5年間の経験をまとめてみました。
題して、「バリアフリー旅行の現場から ~阻害要因とバリアフィットの可能性~」

「A4 10枚」くらいなら書けそうと思って書いてみたら、まぐれで優秀賞いただきました。

タップアワード 公式サイト

観光関係の皆様、ぜひご応募ください。

受賞しました!!

バリアフリー旅行の現場から ~阻害要因とバリアフィットの可能性~

1. はじめに

2020年、東京オリンピック・パラリンピックが開催される日本において、 バリアフリー対応は、各業界で叫ばれ、今まさに急速に進んでいる。
交通機関、 飲食店、観光施設など様々な施設のバリアフリー化が進む中、一番遅れており、 一番可能性あるのが、宿泊施設であろう。

筆者は、山形県米沢市の小野川温泉にある温泉旅館「鈴の宿 登府屋旅館」を 営んでいる。
2014年から「3世代でも安心。車椅子でもラクラクの温泉宿」 として、車椅子ユーザーを積極的に受け入れてきた。
5年間の実績が評価され、 2019年の 6 月には全国の旅館やホテルが加盟する全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の全国大会において「全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会 会⻑賞」という単独旅館としては最高賞をいただいた。
5年間の現場での経験を もとに、バリアフリー旅行の現状と課題、可能性について考察した。

2. バリアフリー化を阻害する3つの要因

宿泊施設のバリアフリー化が進まないのには、3つの要因がある。

1 金銭的要因

バリアフリー化の必要性を感じながらも一歩踏み出せない表面上の要因が金銭的要因である。
要するに「お金がかかる」から。

インバウンド対策の場合、言語の研修やメニューの作成など、最初はソフト面のリニューアルから始めることができ、比較的取り組みやすい。
それに対して、バリアフリーの場合は、まずハードを直す「イメージが強い」。
ここであえてイメージが強いと書いたのは、 ハードを直さずとも始める手法があるからである。

しかし、実際は、バリアフリーは、ハード改修がすべてで設備投資が絶対に必要と考える経営者が多い。
また、日本建築は段差にも意味があり、そもそも段差の多いつくりになっている。
ハード改修した方が受け入れやすいのは確かではあるが、絶対ではない
その対応策については、後章にて説明する。

2 心理的要因

今でこそ年間150組以上、通算500組以上の車椅子ユーザーを受けいれている当館であるが、2013年までは、車いすユーザーの受け入れをお断りしていた。
予約の段階で、車椅子ユーザーでは難しいと判断し、お断りしていた。

当時のキャッチコピーは、「高齢者に優しい宿」。
手すりやスロープ、エレベータ ーなどを整備して高齢者をターゲットにしていたにも関わらず、車椅子ユーザ ーはお断りしていた。

当時を振り返ると、車椅子ユーザーへの多大な恐れがあったと言える。

当時、館内に3種類の段差があった。
客室の入り口の靴を脱ぐ場所の段差、大浴場の脱衣所から浴室への段差、客室のお風呂への段差。
いずれも1段で7センチから20センチ程度である。
たった1段なので、車椅子に乗ったままでも乗り越えられる。

しかし、当時はこの1段で何かトラブルになってはいけないと過剰に反応し、全ての車椅子のお客様をお断りしていた。
「段差がある=受け入れてはいけない」という過度な恐れがあった
クレームへの不安である。

また、違うタイプの心理的要因もある。
それは、集客の不安である。
「車椅子ユーザーが、果たして旅行をするだろうか?」という心理。

「設備投資をしてみ ようかな」と思っても、「改修した分、利用されるのだろうか?」という不安から二の足を踏む場合も多い。

3 概念的要因

これが一番の原因ではないかと思われるのが、概念的要因。
わかりやすくいうと、言葉とイメージの問題である。
実は、バリアフリー化を最も邪魔しているの は「バリアフリー」という言葉である。

大辞泉によると、【バリアフリーとは、障害者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こうという考え方。道や床の段差をなくしたり、階段のかわりにゆるやかな坂道を作ったり、電卓や電話のボタンなどに触ればわかる印をつけたりするのがその例。】

ウィキペディアによると、【バリアフリー(英語: Barrier free)とは、対象者で ある害者を含む高齢者等が、社会生活に参加する上で生活の支障となる物理的な障害や、精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた事物および状態を指す用語である。】

不動産用語集によると、【障害者や高齢者、子供が生活するするうえでの障壁 (barrier)を取り除くという考え方を「バリアフリー」といいます。具体的には、 建物内の段差をできるだけなくしたり、廊下の幅を広げることなどが挙げられます。これまで、主に交通機関や住居内で生活する際のバリアフリー化が進めら れてきました。】

他にもバリアフリーを解説する文章はたくさんあるが、いずれにおいても「誰もが」を標榜するにも関わらず、概ね「段差を少なくする」が解決策になってしまっている。
ここに大きな問題がある。

辞書ではなく、一般の目線ではどうだろう。
「バリアフリー=段差ゼロ」とい うイメージがないだろうか。
もし、バリアフリーと書いてある施設で、段差が2 段あったら「あれ?バリアフリーって書いてあったのに」と思わないだろうか。

「誰もが使いやすく」という言葉とは裏腹に、バリアフリーとは、ほぼ車椅子ユーザーに向けてのみの言葉なのである。
そして、それがすでに一般人の中に浸透しており、その概念を変えないと真のバリアフリー化は見えてこない。

3. バリアフリーの対象者とは?

「バリアフリー」という言葉が対象にするであろう「誰もが」にはどんな種類 があるのか。

障害者対策の基本的理念を示す法律「障害者基本法」では、障害者の定義を「身体障害、知的障害、または精神障害があるため⻑期にわたり日常生活、または社会生活に相当な制限を受ける者」としている。
2005年に施行された「発達障害者支援法」によると、自閉症・アスペルガー症候群、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)などを「発達障害」 と定義している。
また、2013年4月の障害者総合支援法においては、障害者 の対象に難病等が追加され、障害福祉サービスの対象となった。

さらに、詳しくみてみると「身体障害」とは、先天的あるいは後天的な理由で 身体機能の一部に障害を生じている状態、あるいはそのような障害自体のこと をいい、身体障害者福祉法では、「視覚障害」、「聴覚・平衡機能障害」、「音声・ 言語・そしゃく機能障害」、「肢体不自由」、「内臓機能などの疾患による内部障害」 の 5 種類に分類される。

お気付きの通り、車椅子ユーザーは、様々な障害者の中の「身体障害」の中の 「肢体不自由」に分類される。
しかし、実際には身体障害の他に、知的障害や精神障害、身体障害の中にも視覚障害や聴覚障害、そしゃく機能障害、内臓疾患に よる障害など、様々な障害がある

さらに、この他にも「認知症」や「高齢者」も対象になりうるのである。
明確な障害がわかっていれば対処も明確だが、認知症や高齢者の場合は「目が少し見えにくくなって、耳が少し聞こえにくい」など、いくつかの要因が組み合わされている場合がある。

前述のバリアフリーと書いてある2段の段差がある施設では、聴覚障害や内臓疾患の障害に対応しているのかもしれない。
しかし、バリアフリーの言葉のイ メージが、車椅子ユーザー対応に偏っているため、理解されにくい。

4. 提言 バリアフリーよりも「バリアフィット」を

「バリアフリー」という言葉は、健常者ばかりではなく障害者にも目を向けてもらうという当初の目的を達したと筆者は感じている。
またバリアフリーという言葉が、段差ゼロのイメージが強すぎるため、段差が多い施設は最初から思考停止し、取り組もうと思わなくなる。

今後は、よりユーザーと現場を結びつけ、 受け入れ側も一歩踏み出しやすく、受け入れ件数も増えるような取り組みが必要である。

そこで筆者が提言するのは、「バリアフィット」である。

受け入れ施設が取り組むのは以下の手順である。

1 対応サービスを決める

まず、自社の設備をチェックする。
段差の有無や入り口の幅だけでなく、ハード以外にどんな対応ができるか。
貸切風呂がある。
筆談対応ができる。
やわらか い食事を提供できるなど、無理せずに取り組める内容を洗い出す。

2 対象者を決める

対応サービスが決まったら、対象者を決める。
車椅子ユーザーでなくても、受け入れ可能な対象者がいないか。
もしも設備投資をするとしたら、どんな設備でどんな対象者を増やせるか。

例えば、貸切風呂があるならば、乳がん手術後の女性を対象とした入浴が可能である。
いわゆるピンクリボン運動。
術後の跡が他人に見られないような配慮だけで も、立派なバリアフリーな対応になる。
館内に段差があっても、エレベーターがなくても良い。

3 情報を伝える

どんなにバリアフィットをしても、対象者に伝わらなければ意味がない。
自館の対象者に伝わる場で、伝わる方法で伝えていく必要がある。
写真だけでなく、 動画も組み合わせることで、より間違いなく情報が伝わる。
次章でより詳しく解説する。

5. 情報発信がすべて

バリアフリー対応でもっとも重要なのは、介助でも改修でもなく、情報発信である。
情報発信がきちんとできれば、バリアフリー対応は完成したと言ってもい いほどである。

例えば、エレベーターがなくて、階段が20段ある宿。
その情報がきちんと出ていれば、見た人が選ぶことができる。
無理だと思う人は行かないし、大丈夫と思う人は足を運ぶ。
すべてを伝えることは、難しいことではあるものの、自館の状況を事前に相手に伝えることができさえすれば、選ぶのはお客様次第である。

現在は「うちはバリアフリーじゃないから」と情報発信そのものを控えている宿の方が多い。
日本建築は、そもそも段差があるものだし、段差にも意味がある。
段差=悪ではなく、段差情報を出さない方が問題である。
すべての宿が、一定基準の情報をインターネット上に並べることができれば、ユーザーは選び放題。
その時、必ずしも段差ゼロが選ばれるわけではなく、このくらいの段差ならなんとかなると選ばれる宿も出てくる。

広がってきてはいるが、さらなる情報の充実が車いすユーザーに求められている。

(つづく)

 

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