旅館ブログ

なぜ同業者が隣り合うのにつぶれないのか?温泉街の秘密

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八百屋と魚屋、昔はいっぱいあった

つぶれてる温泉街もあるけどさ…。

3世代でもラクラクのバリアフリー旅、
そして家族で落語を楽しんでほしい…
鈴の宿 登府屋旅館の 遠藤直人(@naaot)です。

昔は、八百屋と魚屋がいっぱいありましたね。

当館の前の空き地も元は魚屋さんでした。
山奥の小野川温泉に魚屋さんが、複数あったんです。

今は、シャッター街と呼ばれている全国の商店街にも八百屋、魚屋、肉屋など、たくさんありました。
それがどうしてなくなってしまったのか?

それに対して、温泉街。
旅館という同業者が隣り合っているにも関わらず、どうして生き残っているのか?

そんなに宿泊客が多いのか?
いや、どう考えても日常的に肉や野菜、魚を買う方が多いはず。

旅館なんて年に数回しか利用しないはず。

「泊食分離」を考えるヒント

実は、ここにこそ泊食分離を考えるヒントが詰まっています。

商店街は違う商品を売っているお店が並んでいます。
はじから買っていけば、肉、魚、野菜、服など欲しいものが手に入る。

近くにあるお買い物に便利な場所でした。

ところが、ある時期からこれにとって代わる存在が現れます。
そして、商店街から八百屋や魚屋、肉屋は消えていってしまいます。

そう、スーパーマーケットです。

商店街に置いてあるものが一箇所に集まり、安い。
大量仕入れなので、安い。

人参や大根、アジにサンマ、豚バラ、牛コマ。
どうせ買うなら、安い方がいいって、スーパーマーケットが大繁盛。

そして、商店街から同じお店は無くなります。

温泉街は、同業者しかいない

同じお店がなくなるっていうなら、温泉街はどうでしょう?
隣り合っているんだから、なくなるはずです。

しかし、まだ生き残っています。

温泉街でなくなったのは、その中で飛び抜けて巨大化した宿があったところ。
そこは勝って、他は負けるというのはありました。

しかし、そうでなければ、まだ生き残っています。

なぜでしょう?

温泉だから?
単価高いから?
レジャーだから?

全部違います。

同じ現象が見られるのは、ケーキ屋さんです。

ケーキ業界は、昔からある小さなケーキ屋さん、それも家族経営のような小さなお店も生き残っています。
誕生日ケーキなど扱わず、エクレア1品だけのお店や、たい焼き1品だけのお店でも生き残っています。

エクレアやたい焼きなんて、スーパーどころかコンビニでも売っています。
さて、どうして生き残れるのでしょう?

答えは簡単。

作る機能があるからです。

八百屋さん、魚屋さん、肉屋さんは、食材を仕入れて、並べて、売る。
旅館やケーキ屋さんは、材料を仕入れて、加工して、売る。

加工する=作る

これが大事。

だから、人参やサンマは、スーパーで買う人もエクレアは「やっぱりあのお店よね。」とケーキ屋さんで買うんです。
作っているから、世界で唯一の存在になれる。

食材なのか?加工するのか?
独自性を出せるかが決まります。

ですから、お肉屋さんでもコロッケにしたり、魚屋さんがフライにしたりすれば、「この店のコロッケのこの味」と買いに来ていただけるようになり、生き残れます。

スライドに並んでいる、豆腐屋。
豆腐屋さんも加工メインのはずなのに、ほとんどが姿を消しました。

こちらは不運にも技術革新がありました。
同じ原材料で3倍の量の豆腐を作る技術。
普通の豆腐屋さんで100丁しか作れない材料で、300丁作れる技術ができてしまい、日常的に使う食材であるがゆえに価格競争で負けてしまいました。

技術革新というか、技術改悪ですけど、消費者がそっちを選んじゃったんですよね。
日本酒も同じような現象がありました。

そんな例外を除けば、「作る」が生き残りをわける。

旅館にとって、厨房があって、料理を出せるって、実は生命線なんです。

泊食分離の先にある不毛な戦い

では、泊食を分離するとどうなるか?

ポイントは、「食」です。

「食」を押さえられるかどうか。

「食」なら、宿に価格決定権があります。
「泊」なら、相場に価格決定権があります。

単純に考えれば、泊食分離は、分けるだけでしょ?
と思います。

「泊+食」=「泊」+「食」

だったら、お客さんが選ぶんだからいいじゃないと。

実際には、
「食」の宿は、価格をキープ、利益確保。
「泊」の宿は、価格下落、激しい競争。

ビジネスホテルを見ればわかる通り、「泊」だけでは、相場によって価格が乱高下します。

今は、1泊7,000円の宿も、以前は1泊3,000円の時代がありました。
施設を変えたわけでも、原価が倍になったわけでもなく、相場がそうなっただけです。

特に東京のホテルは、今、供給不足。

オリンピックに向けて、バブルが膨らむ日本の宿泊業界。
2020年、日本の歴史上最多の宿泊施設数、宿泊部屋数が用意され、世界からお客様をおもてなしします。
ホテルや旅館だけでなく、民泊も含め、過去最多、間違いなしです。

2週間の大会の後は、そのまま過去最高の余剰在庫になります。

空前の安売りになるでしょう。
そして、姿を消す施設も多く現れるでしょう。

だって、バブル崩壊だもん。

「だって、世界の東京になるんだよ」と思いたいところですが、先輩である長野はオリンピック直後に大変なことになりました。

オリンピック=バブル。
生き残るためには、相場に巻き込まれないためには「食」を手放すべきではないんです。

でもね、「泊食分離」は、国策なんです。
オリンピックという日本の晴れ舞台ですよ。

日本国民として応援しないんですか?
非国民ですか?

五輪第一。
一億総活躍。
考えません、終わるまでは。

オリンピックのあとのことなんて考えちゃいけません。

おもてなし。
おもてなしが大事です。

おい、さっき「食」を手放しちゃダメって言ったじゃねぇか。
なに急に手のひら返してんだい?

そう、おもてナシだけに、ウラがあります。

著者情報

1976年、山形県米沢市生まれ。福島大学経済学部を卒業後、㈱旭テック(現・旭ブレインズ)に勤務。その後、オーストラリアでの1年間の放浪生活、那須温泉・山水閣での研修を経て、2004年、鈴の宿 登府屋旅館にUターン。宿の仕事のかたわら、小野川温泉のまちづくりに注力していた2011年、東日本大震災を経験。震災後は、米沢の温泉旅館の連携を模索。1か月後には、「温泉米沢八湯会」を組織化し、義援金を集め、プランを作り、新たな切り口で米沢の価値を高めている。2013年、代表取締役への就任を機に「車いすでも安心して過ごせる宿」を目指す。「お客さまは、旅館ではなく旅行に来ている」という発想から『車いすで米沢を旅する本』を編纂。車いすでも安心して旅できる地域づくりを行っている。また、宿の宴会場では、不定期で自主セミナーを開催。講演テーマは、「リピーターを生み続ける仕組みづくり」「小野川温泉・米沢八湯のまちづくり」「補助金・マスコミ・ソーシャルメディア活用法」「燃料は、捨てる温泉熱!ヒートポンプで灯油ゼロ」など。自身の経験を公開しながら、他地域からの視察も積極的に受け入れている。